渋谷の六本木通り前の三叉路に、クロスタワーという高層ビルがあります。駅のそばで、グローバル企業の日本支社が入居していたり、有名シェフのレストランが上層階に入っていたりと人気の物件です。中途で入社した私は、まず先輩社員に付き添い、大型既存ビルを担当し経験を積みました。その後、新築の高層ビルの立ち上げを短期間担当したのち、このビルにやってきました。その頃のこのビルはお世辞にも価値の高い物件ではなく、テナント様の満足度も低かった。オーナー企業は1990年代末の金融危機で破綻。債務返済の一環で売却され、ビルの価値を高める投資ができる状況ではなかったのです。私たちがプロパティマネジメント業務を引き継いだときには、「今どき、都心の一等地に、サービスレベルの低いビルがあったなんて」と驚きました。だからこそプロパティマネジメントの効果が高い。我々とすれば、逆に「これはやりがいがある、私たちの腕の見せ所だ」という感じですね。
新しいオーナー様は、私たちと同じく「長期保有して価値を高めたい」という考えで、新たな設備投資にも積極的です。しかしハードだけでなく、テナント様の意識改革も重要。例えば低層階の商業店舗。せっかく内装をきれいにしても、ノボリや看板が好き勝手に置かれていたら台無しです。私は一軒一軒をまわって、新しいルールの説明をしました。『規則だから』と言うよりは、『みんなで協力してビルの価値を高めていこう』という考え方を伝えることが重要です。そうすることで、リニューアル工事など、私たちの活動にも積極的に協力して頂けるようになる。もちろん、古いビル特有のトラブルに誠心誠意対応することでも、信頼はさらに深まります。こうして、トイレ、エレベーター、内装などが更新され、ビルはどんどんきれいに変わっていきました。サービスや設備に不満を持っていた古くからのテナント様も、今ではかなり満足していただいています。
大切なのは想像力だと思っています。例えば、『オフィスが休みの日を狙って工事をしても、レストランでは結婚式をやっているかも知れない』とか、テナント様の事業内容、利用状況を想像して、テナント様が困りそうなことがあれば事前にフォローする。このような些細な配慮の積み重ねが、お客様からの信頼につながります。これは、設備の良し悪しより、人の力です。まずは顧客満足度を高めること。そして価値を高めるための長期プラン、つまりストーリーを創る。もちろん、私たちやオーナー様だけの力ではなく、テナント様を巻き込んで、みんなで良くしていくものです。たとえば、ビルオーナー様には、テナント様のニーズを満たす投資を促しつつ、サービスに満足していただいたテナント様には、家賃の改定などにも納得していただく。自分が考えたストーリーに沿って、ビルを育てていく面白さが、そこにはあります。







